02. 日毎に変わる耳鳴り、聞き辛さ、耳閉塞感

1)誤診されやすい耳症状

症例:33歳男性、機械メンテナンス作業

先の「頭抜けて多いめまい」で触れましたが、浮遊耳石はめまいに加え、さまざまな耳症状の原因になります(浮遊耳石症)。学会や研究会で報告した症例の中から、複数例を紹介します。上図の例は、初診時に耳症状とめまいがあり、聴力型はメニエール病初期に酷似しますが、再発予防の生活指導で、1ヶ月後には正常聴力に回復しています。重心動揺記録はほぼ正常です。作業職は工場、建設現場、内装業、スーパーの仕分け、理髪業、調理、整体、マッサージなどを問わず多く受診し、発症リスクはデスクワークと変わりません。ボルダリングは頭部が動かず、浮遊耳石症に無効で、本疾患の有害生活習慣の多くが該当しています。

症例:31歳独身女性、自宅でピアノ教師

この例は前施設と同様に、受診時、両側聴力が全音域で低下し、重心動揺記録も明らかに増大しています。最初の例と同じく耳痛も訴えています。耳症状は耳閉塞、耳鳴、聞き辛さが多いのですが、音が響く・割れる、耳痛も稀でありません。本疾患ではしばしば、実際の聞えよりも聴力検査の結果が悪くでる傾向があります。発症時から両側性のメニエール病は稀です。長く坐る点はピアノ教師もデスクワークと同様で、自宅と職場が同じで通勤を欠く点は、専業主婦や自宅で自営業と変わりません。

症例:53歳女性、専業主婦、SE

システムエンジニア(SE)は長く坐り、しばしば長時間勤務のため、本疾患を発症しやすいといえます。最初の例と同様に、低音障害を示しますが、本疾患の耳症状は、日毎にあるいは日内でも変動するのが特徴です。めまいと耳症状は同時に、前後して、あるいは単独にも起こります。音が響く・割れるは本疾患でしばしば訴えられます。生活指導しても、必ずしも実践されるとは限らないので、1ヶ月後に改善しない例では、指導内容を徹底しています。

2)浮遊耳石代謝

下図は右内耳膜迷路を、頭部の前上方から見た模式図です。耳石器は卵形嚢と球形嚢の二つがあり、隣り合っていますが直接はつながっていません。卵形嚢は三半規管に直接つながり、頭位が直立から水平になると、後半規管や外側半規管が卵形嚢よりも低くなることがあります。比重2.71の浮遊耳石は、容易に半規管に入ってしまいます。球形嚢は細い再結合管(reuniting duct)で、蝸牛管とつながっています。耳石代謝は不明な部分が多いのですが、平均1/100mmと極小なので(下図、右上)、球形嚢の浮遊耳石が再結合管につまると、蝸牛管に影響し、耳症状を発現させる可能性があります。

右内耳膜迷路模式図

浮遊耳石代謝

浮遊耳石代謝について、比較的最近、興味深い論文が公開されていますので、核心部分を紹介します。ドイツの研究チームによる仕事で、①天然の炭酸カルシウム(方解石)、②ゼラチン・ゲルの上で成長させた人工耳石、③手術で採取したヒトの単離した耳石を、3種類の液体に浸し、電子顕微鏡で観察しています(上図)。液体は①pH5.0の弱塩酸、②硬水を軟水に変えるキレート(EDTA)、③イオンを除去した純水です。上図右下は3種の液体中の、電顕写真の経時的な変化を示し、10~15分もするといずれの液体でも、結晶が溶けてきています。耳石は平均1/100mmと極小で、両端は緻密な、中間は粗な構造になっており(上図、左下)、中間部分から溶けだし、その後、両端が溶けるのです。

内耳の膜迷路(外側の骨迷路の外リンパ中に、膜で仕切られた膜迷路がある)には、Ca2+イオンを除去する機能があり(Caポンプ)、耳石の溶解をうながす機能が備わっているようです。これまで、暗細胞(dark cells)が浮遊耳石を吸着し、取り除くと考えられてきました。しかし、耳石器から離れた浮遊耳石を、積極的に溶かす機能が膜迷路にそなわり、このために、極小である必然性があるのかもしれません。浮遊耳石が一塊として沈殿していると溶けにくく、撹拌をうながす体操や速歩が再発予防に有効なことも、この研究から納得できます。

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