多忙なストレスがかかわるめまい

メニエール病1,008名の初診時年齢(2006.5-2014.9)
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メニエール病1,008名の発症年齢(2006.5-2014.9)
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当センターで、良性発作性頭位めまい症についで多い病気は、メニエール病で全体の16.5 %を占めます。今回の集計では40代〜60代がほぼ同数、30代、70代、20代がこれにつづきます。しかし、発症年齢は30代〜50代の勤労世代が突出して多く、ついで20代と60代、ぐっと下がって10代と70代と富士山のような分布を示します。この分布は女性にそのまま当てはまりますが、男性は女性よりも緩やかな丘状の分布を示します。女性が男性の1.4倍です。

発症年齢で、男性は30代から50代までが全体の69.4 %を占め、20代、60代がこれにつづきます。女性は40代が最多で、ついで30代、50代、60代、20代、70代の順です。女性の30代、40代は育児や兼業で忙しく、50代、60代も家族のケアや介護に追われます。男性の30代は肉体的に多忙、40代、50代はストレスの多い世代です。これらの統計からも、メニエール病が多忙やストレスのかかわる病気であることがわかります。

メニエール病の症状は、1時間以上グルグル回るめまいと吐き気や嘔吐、耳鳴り(ブー、キーン、ジー、シャーなど)、難聴、耳の閉塞感や圧迫感がとつぜん発症し、不規則にくり返します。回転性めまいは数時間から1日以上つづくこともあります。発症の早期には、これらの症状は数日から数週で自然に軽快しますが、症状をくり返すうちに改善しにくくなります。早期は、低音障害の軽快(正常聴力)と再発をくり返し、ある時から高音の障害をともなうようになり、全音域の障害へと進行します(下図)。一側の難聴が高度に進行すると、聴力の良かった他側の耳にも発症する厄介な病気です。

メニエール病の難聴進行パターン
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メニエール病はよく知られている割に、本当のメニエール病(確実例)は少なく、誤診がきわめて多い病気です。他施設でメニエール病と診断され、セカンド・オピニオンを求め、あるいは専門施設の治療を希望されて、当施設に多数の患者さまが受診されます。しかし、これらの方々の実に90%以上は良性発作性頭位めまい症です。誤診の理由は、良性発作性頭位めまい症の診断基準に「耳症状をともなわない」の一文があるためです。一言でいうと、良性発作性頭位めまい症は運動不足病、メニエール病はストレス病です。しかし、本当のメニエール病でも、20~30 %は良性発作性頭位めまい症を合併しています。

メニエール病と同じ耳症状を示し、終始めまいを欠くことがあります。これを低音障害型感音難聴とか、蝸牛型メニエール病と呼びます。メニエール病は、症状が軽快するとまず回転性めまいが消えますが、耳の症状はしばしば残ります。この状態は低音障害型感音難聴と同一です。低音障害型感音難聴はメニエール病の軽症型と理解でき、あとで述べる患者の行動特性(行動のクセ)の調査も、これが裏づけられました。

罹病期間別の聴力分布(左)と患側(右)の割合(2006.5-2014.9)
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当施設の8年5ヶ月間に受診した、メニエール病1,008名の初診時の聴力を、前に記した四型に分類し、罹病期間別に割合を調べました(上図、左上)。同様に、難聴が右耳か左耳か、両耳かを調べました(上図、右下)。罹病期間を対数表示(1.5ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年 - - の倍数系列)すると、低音障害の割合は減少し、高音障害の割合は不変、全音域障害の割合は一直線に(罹病期間の対数に比例して)増加することがわかります。一方、両側障害の割合も一定の規則で(罹病期間の指数に比例)増加しています。

これらの規則性から、全音域障害の割合は、発症して1年後に25 %、2年35 %、4年44 %、8年54 %、16年64 %に達すると予想されます。同様に両側性の割合は、発症して2年で11 %、4年12 %、8年14 %、16年19 %、32年38 %に達します。病気が長引くと、進行例の割合が増え、両側性に移行する確率が高くなります。難聴の進行や、両側性への移行は避けられないことを思わせますが、実はそうではないのです。

1970年代には、メニエール病はホワイトカラーの中間管理職病と言われました。しかし、現在では患者さまの職種は様変わりし、主婦(フルの兼業を除く、パートを含む)が全体の22 %、事務職17 %、無職(以前発症の高齢者が大多数)15 %、現場作業11 %、販売・接客業5.5 %、以下、教師・保育士、営業職とつづきます(下図、上段)。無職を除き、多忙、派遣社員やシフト制業務、接客・対人・奉仕、管理される職種が上位を占めています。絶対数は多くありませんが、最近は教師や介護・福祉に関連した職種が目につきます。合併症は不眠症が全体の28 %に見られるほかは、目立った病気はありません(下図、下段)。

メニエール病1,008名の職種(2006.5-2014.9)
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メニエール病1,008名の合併症(2006.5-2014.9)
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以前から、メニエール病の患者さまは几帳面、まじめ、遊び下手といわれてきました。過去に、患者群と地域住民に同一アンケート調査を実施し、性・年齢を対応させて比較した結果、風聞の正しいことが裏づけられました(下表)。メニエール病患者群は、自分を抑えて献身的に仕事をする傾向(自己抑制行動、熱中行動)がきわめて(有意に)強く、気晴らしが苦手でイライラする傾向(攻撃行動)の強いことも判明しています(下表)。一方、めまいを欠く低音障害型感音難聴(蝸牛型メニエール病)は、メニエール病に比べ熱中行動や自己抑制行動が弱く、時間切迫行動の強い傾向が確認されました(下表)。

行動特性、患者と地域住民の比較
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メニエール病1,008名の発症誘因(2006.5-2014.9)
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発症誘因を調べると、事情はいっそう明らかになります。男性は職場の多忙、ストレスが大多数を占め、女性は家庭内不和・トラブルが最多、ついで兼業や育児の多忙、職場ストレス、介護、子供(親)と同居、家族の病気・死が上位を占めています(上図)。大多数が家庭、家族に関わる項目で、メニエール病が女性に多いのも納得できます。育児と仕事に追われる女性、家庭不和や介護で心労の絶えない女性、合わない上司のもとで働く勤労者、長時間勤務に疲れた勤労者、対人業務で気遣いする接客・販売業務、シフト制で不眠や体調を崩しやすい現場作業など。我慢を強いられて報われかたの少ない生活環境―報酬不足―が発症の引き金となっています。

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なぜ行動のクセや日常生活中のストレスが、内リンパ水腫を発症させるかは不明です。しかし、当クリニックを開設した2006年、貴重な体験に出会いました。メニエール病の66歳、男性の患者さまで、発病して24年が経過し、左耳は難聴が進行・固定し、右耳も難聴が始まり、両側性に移行しつつありました。たまたま、連日熱心に有酸素運動を実践したところ、耳鳴りは消失し、難聴も1年後に正常に戻り、完治したのです。進行・固定した難聴が正常に回復したメニエール病例は、過去に報告がありません。これ以来、メニエール病患者さま全員に、ストレス対策と有酸素運度の実践、無投薬を勧めてきました。

まず、この患者さまの経過を紹介します。長距離トラック運転手で、若いころ睡眠時間を惜しみ、トラックで寝起きする生活がつづき、42歳のとき左耳の難聴と回転性めまい発作がおこり、くり返すようになります。複数の医療施設で種々の投薬治療を受け、めまいは軽快しましたが、難聴は進行し固定してしまいます(上図、上段左)。某大学病院に18年間通院し、2006年8月(当時67歳)たまたま当施設を受診しました。左耳(×印)の難聴は進行し、右耳(○印)も低音と高音が少し低下していました(上図、上段中)。

すでに退職し、特別なストレスはありませんが、充実感に欠け、不活発な生活なので、ジムで有酸素運動を勧めしました。まじめ、几帳面な性格で、週三回ジムに規則的に通い、それ以外の日も野外で2,3時間強歩し、汗を流す生活に変わりました。有酸素運動を始めて4ヶ月目に、固定した難聴が改善しはじめ、7ヶ月目にほぼ正常聴力に回復しました(上図、上段右)。一時体調をくずし、難聴と回転性めまいが再発しましたが(上図、下段左)、運動を開始して1年後に聴力は正常に回復し(上図、下段中)、頑固な耳鳴も消失します。67歳でなんと0デシベル(!)で、その後もこの状態がつづきました(上図、下段右)。

6ヶ月以上観察した同一対象の治療前後の比較
(χ2検定、2006.5-2014.9)
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この例は決して例外でなく、その後も、めまいが消失し難聴も改善して、受診の不要となった患者さまは多数に上ります。2014年9月末までの8年5ヶ月間の集計で、メニエール病が1,008名に達し、データベースを集計・分析し、2015年末に論文として出版したので(Otol Jpn 25, 828-835, 2015)、要点を以下に紹介します。1.008名中、ストレス対策、高頻度(現在は原則、毎日)の有酸素運動の実践、無投薬(現行の浸透圧利尿剤、ステロイド薬他はまったく無効)を勧め、低音障害で3ヶ月以上、高音障害、全音域障害で6ヶ月以上観察した319名の結果です。初診時(上図、左)と治療後、集計時(上図、右)の聴力分布(%)を示します。

最終診察時の罹病期間は、初診からの観察期間をプラスしてあります。初診時と最終診察時の聴力分布を比較し(χ2検定)、以下の事実が判明しました。@ストレス対策と有酸素運動は聴力を有意に改善させる(図中**)。A発症して8年まで改善の可能性がある。B発症早期ほど治りやすい(正常割合が大きい)。C低音障害は治りやすく、高音障害、全音域障害は治りにくい。さらに、D難聴不変例でも、高率に耳閉塞感・耳鳴が軽快・消失することが判明しました。治療対象例をすべてを集計し、聴力改善が統計学的に立証された治療、耳鳴に有効であった治療はこれまでほぼ皆無で、画期的なことです。

もちろん、めまいの治療成績も集計しました。めまいはすぐに効果がでるので、3ヶ月以上観察できた429名で調べました。消失が78.3 %、ほとんどない12.1 %、時々ある5.8 %、しばしばある3.8 %でした。消失+ほとんどないが90.4 %を占めます。有酸素運動を始めると、大多数例でめまいは1,2ヶ月で消失します。集計で時々ある、しばしばあるの場合も、めまいの程度は軽く、良性発作性頭位めまい症に由来するめまいと思われます。最新の集計で、メニエール病の27,9 %が良性発作性頭位めまい症を合併しています。

メニエール病の生物学的解釈
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メニエール病はストレス病なので、ストレス対策が不可欠です。2006年以前にもストレス対策を実施しましたが、今回のような成績は得られていません。これまでの調査結果を総合すると、メニエール病がなぜ発症し、いったん発症するとなぜ高い確率で進行するか、なぜ有酸素運動は効果があるか、を解き明かすことができます。エール大学の脳科学者ポール・マクリーン博士は、1970年代、三位一体脳理論(Triune brain theory)を提唱しました。人類の脳は、爬虫類レベルの反射脳(脳幹)、初期哺乳類レベルの情動脳(大脳辺縁系)、人類で発達した理性脳(大脳皮質)が三位一体となって機能する、というものです。

解剖学的には否定されましたが、考え方は的を射ています。すでに爬虫類レベルで、存在誇示(えばる)、挑戦(強いものを引きずり落とす)、へつらい(強い個体にすり寄り、甘い汁を吸う)、服従(支配される)の、四行動を区別できます(上図)。前の表(行動特性、地域住民と患者の比較)で示した、メニエール病患者さまの我慢や熱中は、周囲の希望に沿うへつらいや服従に該当し、発症誘因の多くがこのカテゴリーに属します(上図)。

一方、周囲や部下に命令し、従わせる行動は存在誇示に相当し、相手の言い分に逆らい、反論するのは挑戦に相当します。これらの行動の得意な人は、我慢でなく発散なので、ストレスはたまりにくいのです。メニエール病患者さまで、これらの行動をとれる人はきわめて少数派です。このように、患者さまの生活環境、行動のクセ、発症誘因、さらに進化生物学の知識を取り入れると、メニエール病の発症メカニズムの理解は一層、容易になります。

メニエール病発症メカニズムの仮説(高橋)
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メニエール病患者さまの多くは、生まれつき、自己主張やリーダーシップをふるうのが苦手です。このため、周囲からの高い評価を満足とする傾向が強く、上司や周囲の要望に沿うよう、熱心に行動します。この結果、多忙、我慢、奉仕などの無理が重なりがちです。この状況でも周囲からの感謝、待遇、給与(報酬)などが十分報われれば、心労は少ないでしょう。しかし、期待した報酬がえられないと、快・不快の収支バランスが赤字となり、生物学的に多忙や我慢、奉仕は見合わなくなります。しかし、自己主張や反論、手抜きが苦手のため、ストレスを発散できず、自身の体を苛むことになります(上図)。

なぜ内耳の症状として発現するか不明ですが、ストレス病は消化器(過敏性腸症候群)、皮膚(頑固な湿疹、蕁麻疹、脱毛疾患)、脳(うつ、適応障害)を問わず、なぜその臓器に発症するかは解明されていません。言えることは、ストレスの毒作用がたまたま内耳に向かうと、内耳機能の恒常性が損なわれ、内リンパ水腫が生まれ、種々の症状を発現させることです。いったん恒常性が阻害されると、弱いストレスに対してももろくなり、自律的に病状が進行してゆく可能性があります(上図)。発病早期であれば、ストレス対策だけで改善する場合もありますが、病気が長くなるにしたがい回復しにくくなります。

この仮説を支持する証拠に、明らかな心労やストレスがなくても、不規則や不健康な生活(深夜帰宅で遅い夕食など)や、極端な運動不足で発症する患者さまがいることです。有酸素運動はつぎの理由で奏功すると考えられます(上図)。毎日、規則的に心拍数の高い運動をすると、全身の血液循環と代謝が向上し、自然治癒力が高まり、内耳環境の恒常性低下が修復される。浸透圧利尿薬は、使用のごく初期は見かけ上、聴力を改善させますが、非生理的な水分排出(血漿浸透圧の上昇)は体に有害なため、すぐに効果が打ち消されてしまいます。2リットルの水分摂取を勧める医師がいますが、同様に、非生理的な水分摂取は有害なため、過剰な水分はすぐに排出され効果は期待できません。

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