05. お年寄りに多いめまい

1)加齢とめまいのかかわり

2015-2016年度の男女別有訴率

全受診者と高齢者(≧65)の疾患内訳の比較(2006.5-2015.9)

最初の図は『2015/2016年度「国民衛生の動向』の有訴率の表を、男女別に図に書きかえたものです。男女で少し異なりますが、加齢にともない、おおよそ筋骨格系(腰痛、手足関節痛)→感覚器(見づらい、聞こえにくい)・神経(手足しびれ)→呼吸循環器系(息切れ、動悸)の順番に訴えが増加しています。めまいは加齢にともない少しは増加しますが、同じ感覚器である視覚や聴覚に比べ、前庭器に由来するめまいは高率ではありません。

過去(2015年)に、お年寄りのめまい受診状況を調べたことがあります。当時の受診者の総数は7,751名、65歳以上のお年寄りは1,599名で20.6%を占めました。疾患別では浮遊耳石症(良性発作性頭位めまい症を含む)が74.2%ととび抜けて多く、この割合は全世代集計と同じでした(二番目の図)。メニエール病の割合も全世代に近く、違いは見られません。お年寄りと全世代を比較し(χ2検定)、統計学的に有意の差のあったのは、低音障害型感音難聴(めまいを欠くメニエール病)が高齢者で少なく、感音難聴・耳鳴、中枢障害、前庭機能低下が高齢者で多いという結果でした(二番目の図、上右)。

浮遊耳石症患者1,589名の受診回数(2010.9-2014.10)

全世代集計と異なる病気も絶対数は少なく、お年寄り特有の目だった病気はありません。しかし、お年寄りのめまいにはいくつかの特徴があります。①体力低下、合併症、入退院などで、歩きや運動に不利な条件が多い。②若い世代よりも病気が長引き、再発が多い。③反射機能が低下しているため、ゆらぐと転倒しやすい。④転倒により骨折のリスクが高まる。過去の一定期間に受診した浮遊耳石症(良性発作性頭位めまい症を含む)1,589名の、受診回数を調べてみました(上図)。全体の88.5%が受診1,2回(受診1ヶ月以内に軽快・治癒)でしたが、少数が3回以上でした。受診回数毎の平均年齢を調べると、回数が増すにつれ平均年齢がふえていました(上図)。以下に、お年寄りの具体例を紹介します。

2)症例

症例:65歳女性、美容師

本例は誰でもなり得る良性発作性頭位めまい症ですが、脊柱管狭窄の手術後で、コルセットを装着し、自宅営業で通勤がなく、前屈作業が多い、という悪条件が重なっています。お年寄りは整形外科疾患の合併が多く、合併すると日頃の活動が低下し、浮遊耳石症の発症リスクが高まります。めまいを発症すると歩きや運動が減り、ますます発症リスクを高める悪循環になります。脊柱管狭窄症は、膝関節や股関節の障害、腰痛や膝痛とならんで、お年寄りにポピュラーな合併症で、とりわけ女性に多発します。

症例:67歳女性、無職

本例は退院後に良性発作性頭位めまい症を発症しています。ライフスタイルもお年寄りに典型的なものです。お年寄りは入院の機会も多く、ベッド上安静は即、浮遊耳石症の発症に結びつきます。お年寄りはたとえ回転性めまいがあっても、めまい感度が低下しているため、しばしば回転感を訴えません。このため余計に転倒しやすいといえます。入院中も、枕を少し高くし、歩行や体操の励行が必要です。

症例:78歳(初診時)女性、無職

本例は肥満、腰痛、膝痛があり、脊椎圧迫骨折を反復し、その結果、さらに運動制限が加わる悪循環となっています。外来で時に経験しますが、整形外科疾患による痛みがあると、寝返りや体位変化が苦痛となり、日常生活のQOLが大きく低下し、歩きや体操は不可能となります。お年寄り、とくに女性は骨密度が低下し、股関節や膝関節の支障をきたし、ささいな外力で椎体圧迫骨折をおこします。転倒は最悪のきっかけになり、肥満があるとダメージも大きくなります。肥満のお年寄りには減量をアドバイスしています。以上の症例から、お年寄りのめまいは、若い世代と比較にならないくらい深刻な症状といえます。

3)めまいの性質

下図はお年寄り1,432名の、めまいの主訴の性質をまとめたものです。回転性めまいや、回転性ははっきりしないめまいが、全体の72%をしめます。ついで、フワフワや揺らぐ、少数が転倒や歩行不安定などです。主訴で転倒は少ないのですが、問診から過去に転倒の既往は少なくありません。お年寄りはめまい感度の低下、筋力の低下が相まって、夜間のトイレや起立時、めまいによる転倒を高めます。規則的な歩行、ストレッチ、スクワットはお年寄りにこそ必要です。

高齢者1,432名の主訴別の患者数

4)めまい群と一般集団の合併症比較

高齢者(≧65歳)1,599名の合併症(2006.5-2015.9)

めまいが長引き再発が多いのは、合併症やライフスタイルが深く関わります。お年寄り1,599名の合併症は、高血圧、整形外科疾患、不眠症が女性でとびぬけて高く、割合は低下しますが、高脂血症、心臓病、消化器疾患、糖尿病がこれらにつづきます(上図)。上位の合併症の割合を、めまい患者群7,751名(■●)と一般集団(□〇)(通院率、『2012/2013年度版「国民衛生の動向』」)の間で比較してみました(下図)。高血圧の合併率は男女(□■、○●)ともに全世代で差がなく、対照的に、不眠症は全世代で患者群がいちじるしく高率でした。若い世代と異なり、高齢者は不眠があると体調を崩しやすく、睡眠薬や鎮静薬の効果が翌日までつづき、体のだるさを訴えます。不眠は昼寝で補うほうが健康です。

整形外科疾患は、患者群の女性60~80代、男性80代で有意に高率でした。加齢で筋骨格系が衰え、腰痛、膝痛、脊柱管狭窄症、さらに腰椎や胸椎の圧迫骨折、股関節や膝の人工関節は、日々の活動を大きく制限します。この結果、外出が少ない、歩かない、長く坐る、昼も横になる、運動しない不活発な生活となり、めまいの大多数を占める良性発作性頭位めまい症の発症をうながし、改善をさまたげます。心臓病はお年寄りの世代の一部で高率でしたが、めまいへの影響は少ないようです。

若い世代でも、長く坐る(デスクワーク、自宅でパソコン・スマートフォン)、歩き少ない、運動しない、横になってテレビ・スマートフォンを観るが多く、良性発作性頭位めまい症は日常的に見られます。しかし、再発予防策で短期間に改善しますが、お年寄りは整形外科疾患や体力低下のために、思うようにできません。これこそがお年寄りでめまいが長引き、再発の多い理由です。さらに加齢とともに、足底の感覚や反射機能が鈍くなり、少しの揺らぎで転倒しやすくなります。訴えにおうじて、外出するとき杖や歩行器を使用する、リュックやカートを利用する、をお勧めしています。

一般集団(国民衛生の動向、厚労省)とめまい集団の比較

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